疑心暗鬼 寺山あきの ひさしぶりに妹の国子が顔を見せた。 コーヒーを淹れて積もる話をしていると、国子がいきなり声を落とす。 「お義兄さん、近ごろ変わったことない。女の人がいるとか……」 「ゴシンパイいただきまして。勇介のような朴念仁に、そんなことあるはずないわ」 「そんな人に限って、いったん火がついたら危ないんじゃないの。用心したほうがいいわよ」 「まさか〜五十男が。だいじょうぶ、だいじょうぶ」 かざした手を横に、自信ありげに振った。 「それならいいけどさ」 × × 夕飯のとき、煮魚をおいしそうにつつく夫の顔をまじまじと見る。妹の言ったことが気になった。相手がこちらに気づいて目を泳がせる。おかしい。ほんとかもしれない。疑い出した。 夕飯をすませると、勇介はソファーに寝ころがって野球にチャンネルを合わせた。茂美は食器の片づけをはじめる。腹いせに水を激しく出すとドドーッ、水音とともに疑心暗鬼の穴ぐらへまっさかさま。中は真っ暗。穴ぐらはでこぼこ、でこぼこ。向こうから足のない夫お化けと女お化けがウクウク言いながら近寄ってくる。たまらない。穴の奥へ逃げると風のようにクワーッと追って来た。 茂美は流しに皿をたたきつける。わたしを裏切るなんて許せない。絶対に許せない。はらわたが煮えくりかえった。 × × 1年後である。 茂美は隣町のスーパーでレジ係りをしていた。客の列は混んでいる。てきぱき目の前の品物を左から右へ通していると、 「あなた、これも」 聞き覚えのある声が追加の品物をもってきて、レジ前のかごに入れた。茂美は顔を上げる。元、夫が子どもを抱いた国子と立っていた。 了
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