関西QE3月度講演の内容
タグチメソッドは田口玄一の創造だが、座談会では統計学者を含めてタグチフィロソフィーの在り方を議論したものである。 田口玄一は、数理統計学も統計的実験計画法も熟知された背景で、技術の世界では市場におけるノイズの世界(必然誤差)を重視した開発が必要で、「数理統計学は要らない」とまで宣言された。 それに対して、福田猪沙男さんはタグチメソッドの素晴らしさを認めながら、ビジネスの分野では数理統計学の分布の概念も必要であるから、要らないとして切り捨ててしまうよりは、われわれとしてはやはりいろいろなことを知っておいた方がよいという気がする。 竹内先生はタグチメソッドの考え方は理解できるが、観察の世界で偶然誤差を認めることは今後も必要ではないかで対談は終わっている。 品質工学会の運営は、統計学者の意見も加えることが必要で、学会の会長人事は動いている。
タグチメソッドは、開発の生産性を高めて、市場における品質を速やかに評価する技術であって、品質を改善するためには、その前に、システ選択段階で固有技術を使って、新奇なアイディアを創造することが大切であると考えている。
タグチメソッドとはの解説
1.売り手(生産者)と買い手(顧客)の許容差 力関係のような非合理の要素を排除して、公平な立場で技術的問題を経済的な尺度に置き換えて、最適な許容差を決めることが大切である。 データの改ざん事件の原因は、売り手側の技術力のなさで起きたものが殆どである。 JIS規格があまり活用されない理由は、顧客の機能限界Δoを超えた時の顧客の損失Aoがあいまいだからではないかと推察する。目に見える実際損失管理から、目に見えない機会損失管理に置き換えることが大切である。 市場の品質は不良率では評価できないので、損失関数に置き換える必要がある。(デミング博士の遺言)
2. 最適解における日米の差 アメリカにおける技術開発では、目標値からのずれの平均2乗誤差を最小にするこが最適設計法の中心であった。 タグチメソッドでは、SN比で平均値のばらつきを最小にしてから目標値に調整する「2段階設計」を行う。 データは平均値からの誤差であるから,加法性のある2乗の世界ではエネルギーの有害成分(Se)は全出力(ST)から有効成分のエネルギー(Sm)を引いた値で表される。ノイズを考えた場合のSN比でも同じことである。 @.目標値からの差の2乗の計算例 プラスチックの成形寸法を調べたところ,目標値からの差が以下のようであった。 -28,-11,-29,-19,-14,-29,-23,-32,-14,-19,-8,-12,-11,-20,-10(単位:μm) 全2乗和 平均値の効果 誤差変動 Se=ST−Sm=6083−5189.4=893.6
A 「目標値からの2乗平均誤差」と「平均値からの2乗平均誤差」は違う 目標値からの差の2乗の平均誤差VTは 全2乗和 ST=Σ(y-m)^2 に対して,その平均値である平均2乗誤差VTは 平均2乗誤差VT=Σ(y-m)^2/n で表される。
【計算例】 目標値からの2乗平均誤差 VT=Σ(y-m)^2/n=6083.0/15=405/5μm^2 平均値からの2乗平均誤差 Ve=Se/(n-1)=63.8μm^2 また,両者の関係は次式のようになっている。
VT=(y平均値-m)^2+Ve 右辺の第1項が平均値の目標値からの「偏り」を表し,第2項が平均値の周りの「ばらつき」を表している。 VTと比べると,Veの方が小さくなっている。平均値を目標値に合わせた後のばらつきを合わせる前に知ることが重要である。 エネルギー比型SN比でも,目標値に合わせた後のノイズの平均値の誤差変動SNを重視する。
理想機能 y=βM 計測誤差 y=βM+e 全二乗和 ST=Sβ+SN
3.問題解決型から技術開発型へ ―科学的思考から技術的思考へー 実験計画法は、英国の統計学者フィッシャーが農事試験場による対策から生まれたもので、数理統計学に基づく「レスポンスの研究」で、収量を高めることが目的である。特性値は平均値を用いてばらつきは等分散で正規性を考える。箸を立てたとき、空気の流れの僅かな差を確率的に問題にした。したがって観察の立場でノイズとの微妙な関係を調べたのである。 米国のシューハートの品質管理も品質特性の規格限界いっぱいの分布を調べるのだから、品質は向上しない。統計的な不良率管理では市場品質は評価できないのである。 タグチメソッドは、改善の立場で、市場における品質を重視する実験を重んずる。そのためには、設計段階で機能性評価とパラメータ設計を行い、SN比による機能の安定性と確認実験で下流の再現性を確保する市場品質を重視した。
4.現場が修正してくれる日本式 アメリカは研究所で決めた技術標準は現場では変えてはならない。日本では問題解決型が普通であるから、現場で工程条件や許容差設計で欠点を修正するのである。そのため、納期が遅れてコストが高くなる。 そこで、現場で修正が不可能のように、製品設計と工程設計のパラメータ設計を行い、現場では修正が必要でないように設計条件の最適化を行うのである。
5.SN比への誤解 SN比を求めるときには、入力ゼロとき出力ゼロになるのが理想だから、温度の場合、摂氏ではなく、絶対温度を使うことになる。 望目特性でSN比を求めるときには、目標値からのずれは一因子で調整できるから、平均値のばらつきでSN比を求めることが重要である。 動特性の評価でも、SN比の分子はβの主効果 Sβと分母はノイズの影響であるSN(ノイズの主効果SNXβ++誤差変動Se)との比で求める。
6.数理統計学との関係 タグチメソッドでは、数理統計学はいらないということになったが、数理統計学にも一理あるので、要らないとして切り捨てるよりはいろいろのことを知っていた方がよいという福田さんの意見があった。
7.誌上参加(数理統計学者のみたタグチメソッド) 竹内先生は数理統計学の立場から、第1種の誤り(あわて者の誤り)と第2種の誤り(ぼんやり物の誤り)のバランスをとることが大切で、統計的実験計画法は二つの誤りを小さくするように合理的に実験を組むことが目的である。 田口氏は偶然誤差より必然誤差を重視するシグナルに対するSN比を目的にしたが、基本的論理はタグチメソッドにとっても本質的な一要素であるから数理統計学の基本的な考え方や手法のいくつかを受け入れる方がコミュニケーションの効率化という点からも有用ではないかと考える。 田口先生の貢献は平均値でなくて、むしろ世の中で避けられないばらつきの大きさをコントロールすることを実験の目標にされたことが大きな特徴である。 フィッシャーはノイズを除いて収量のような平均値を高くすることを重要に考えた。フィッシャーはノイズの影響を消極的に考えていた。 竹内先生は、タグチメソッドを信奉する方が数理統計学は要らない言わられると困る。
統計学者のみたタグチメソッド フィッシャーの実験計画法と田口式実験計画法の違いについては前に述べたので省略する。
8 技術の専門家と統計の専門家 タグチメソッドでは、窓と窓枠のクリアランスが問題の時隙間には加法性がないので、窓と窓枠のサイズを望目特性で評価した後で、平均値で調節するクリアランスを研究はダメだ。田口先生は、安定性のいいものは、それ以外のノイズに対してもロバスト性が悪くなるということはあまり考えられない。
http://kaz7227.art.coocan.jp
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